わ行
ワーケーション
働く場所や時間の自由度が高まる中で、注目を集めているのが「ワーケーション」です。観光地や地方で仕事をしながら休暇を楽しむ新しい働き方として、多くの企業が導入を検討しています。一方で、「生産性は下がらないのか」「制度や費用面をどう整えるか」と悩む担当者も増えています。
この記事では、ワーケーションの定義や目的、導入のメリット・デメリット、企業が実施する際のポイントや事例をわかりやすく解説します。柔軟な働き方を模索する企業担当者や人事・労務担当者にとって、制度設計の参考になる内容です。
ワーケーションとは?働き方の新しいスタイル
ワーケーションとは、「ワーク(Work)」と「バケーション(Vacation)」を組み合わせた言葉で、仕事と休暇を両立する新しい働き方を指します。リモートワークが広がる中で、働く場所や時間を柔軟に選べる環境を整える取り組みの一つとして注目を集めています。心身をリフレッシュしながら業務に取り組むことで、従業員の満足度や生産性の向上にもつながるといえます。
ワーケーションの定義と誕生の背景
ワーケーションは2000年代後半に米国で広がり、日本では観光庁が2020年に本格的に推進を始めました。背景には、長時間労働の是正や休暇取得促進、地方創生といった社会的課題があります。新型コロナウイルスの影響によりリモートワークが急速に普及したことも、導入を後押しする要因となりました。企業にとっては、社員のモチベーション維持や休暇取得率の向上、組織全体の働き方改革の推進といった課題解決の糸口として注目されています。これまでのオフィス中心の働き方から脱却し、柔軟で持続可能な働き方を実現する流れが加速しています。
リモートワークとの違いと共通点
ワーケーションとリモートワークは、いずれもオフィス以外の場所で働く点が共通していますが、目的と意図に違いがあります。リモートワークは業務効率や生産性の向上を目的とするのに対し、ワーケーションは休暇と仕事を組み合わせることで、心身のリフレッシュや創造性の向上を目指します。働く場所も自宅やカフェだけでなく、自然に囲まれたリゾート地や地方都市など多様です。また、個人単位で行うケースだけでなく、チーム研修や合宿として実施する企業も増えています。仕事の質と心の充実を両立させる仕組みとして、多くの業界で導入が進んでいます。
ワーケーションの目的と注目される理由
ワーケーションの目的は、単に働く環境を変えることではなく、新しい体験を通じて生産性や創造性を高めることにあります。自然豊かな環境で過ごすことで心の余裕が生まれ、業務の効率化や新たな発想につながることもあります。また、企業にとっては社員のエンゲージメント向上や離職防止といった効果が期待でき、組織の安定運営にも寄与します。さらに、地方滞在による地域経済への貢献という側面もあり、国や自治体が支援制度を整備するなど、社会的にも注目度が高まっています。働く人・企業・地域のすべてにメリットをもたらす点が、ワーケーションの大きな魅力といえます。
ワーケーションを導入するメリット
ワーケーションには、従業員と企業の双方にとって多くのメリットがあります。特に人材の定着率向上や組織の活性化など、企業経営にプラスの効果をもたらす点が注目されています。
ここでは、ワーケーションを導入する主なメリットを解説していきます。
- 従業員のモチベーションや創造性の向上
- 企業ブランドの強化と地域との連携促進
- 柔軟な働き方による人材確保と定着への効果
- 経営面でのイメージ向上とCSRの推進
これらをうまく組み合わせることで、企業にも従業員にも良い循環を生み出すことができます。
従業員のモチベーションと創造性向上
ワーケーションの最大の魅力は、働く環境を変えることで得られるリフレッシュ効果にあります。自然の中や落ち着いた空間で業務を行うことで、心身のリラックスと集中力の向上が期待できます。特にクリエイティブ職や企画職では、新しい環境に触れることで発想が広がり、普段とは異なるアイデアが生まれることもあります。
また、場所に縛られず働けることが自己管理意識を高め、働く意欲や達成感にもつながります。結果として、従業員の満足度が高まり、組織全体の活力を底上げする効果が生まれます。
地域活性化や企業ブランドの向上
ワーケーションは、企業だけでなく地域にも大きなメリットをもたらします。企業側は地方自治体や地域企業と連携しながら、地域資源を活用した働き方を実現できます。一方で、地域にとっては宿泊や飲食、交通などの経済活動が生まれ、地域振興につながります。
また、社会的意義のある取り組みとして注目されることから、企業ブランドの向上にも寄与します。地域貢献を通じてCSR(企業の社会的責任)を果たし、社員の誇りや企業への信頼感が高まる点も大きな特徴です。こうした「地域との共創」の姿勢が、今後の企業価値を高める要因となっています。
人材確保・定着へのプラス効果
柔軟な働き方を実現できる企業は、求職者から魅力的に映ります。特に若い世代や子育て世代の間では、仕事と私生活を両立できる環境を重視する傾向が強まっています。ワーケーション制度が整っている企業は、働きやすさを重視する人材から選ばれやすく、採用活動での競争力向上につながります。
さらに、既存社員にとっても制度の存在は大きな安心感となり、長期的なキャリア形成を考えるうえでのモチベーション維持に役立ちます。働く場所やスタイルに柔軟性を持たせることで、ライフステージの変化に合わせた働き方を支援でき、結果的に離職率の低下にもつながります。
企業にとっての経営面でのメリット
経営面から見ても、ワーケーションは企業価値の向上に寄与します。社員が心身ともに健やかに働ける環境を整えることで、業務の効率化や生産性の向上につながります。さらに、従業員の満足度が高まることで社内の離職防止にも効果があり、結果として採用や教育にかかるコスト削減が期待できます。
また、社会的評価の向上も大きなポイントです。柔軟な働き方を取り入れる企業は、時代の変化に対応できる先進的な組織として認知されやすく、取引先や求職者からの信頼を得やすくなります。健康経営や働き方改革の一環としてワーケーションを導入することで、企業全体のブランド力を強化し、持続的な成長につながる好循環を生み出せます。
ワーケーション導入のデメリットと課題
ワーケーションには多くの利点がある一方で、導入や運用にあたって課題も存在します。制度を円滑に運用するためには、リスクを理解し、対策を講じることが大切です。
ここではワーケーション導入の代表的なデメリットと注意点を紹介します。
- 業務管理やセキュリティのリスク
- 制度運用や評価体制の難しさ
- 費用負担や公平性の問題
- 通信環境や労働時間管理の課題
課題を理解したうえで、自社の規模や体制に合った仕組みを整えることで、安定的な制度運用が可能になります。
業務管理やセキュリティのリスク
ワーケーションはオフィス外での業務が前提になるため、情報の機密性・完全性・可用性が揺らぎやすくなります。公共Wi-Fiの盗聴や端末の紛失、画面覗き見といった物理的リスクも無視できません。対策としては、VPNの常時接続、MFAの標準化、MDMでの端末暗号化とリモートワイプ、DLPによる機密データの持ち出し制御が有効です。アクセス権限を最小化し、ログ監査を定期実施することで、インシデントの早期検知にもつながります。
制度運用や評価体制の難しさ
場所や時間が分散すると、勤務実績の可視化や成果把握が難しくなります。評価が曖昧だと不公平感が生まれ、制度そのものへの信頼を損ないます。職務ごとに対象範囲を定義し、目標はOKRやKPIで事前合意すると、基準のブレを抑えられます。勤怠はクラウドで打刻・休憩・残業を管理し、週次の1on1で進捗と課題を確認します。トライアル期間を設け、ルールの改善を前提とした運用にしておくと定着しやすくなります。
費用負担や公平性の問題
宿泊費・交通費・拠点利用料などの追加コストは、負担区分を明記しないと不満の火種になります。企業補助の上限額、対象経費の範囲、領収書の要件、日当の有無をガイドラインで具体化してください。職種や家庭事情で参加しづらい社員への代替手当や在宅支援も検討すると、公平性を保ちやすくなります。自治体の補助金や施設連携を活用すれば総コストを抑制でき、制度の継続性が高まります。
通信環境や労働時間管理の課題
観光地や山間部では回線が不安定になり、会議や大容量ファイルの送受信に支障が出ます。事前に回線要件を提示し、モバイル回線の冗長化や帯域の目安を示すと安心です。仕事と休暇が混在すると過剰労働に傾きがちなので、勤務開始・終了・休憩のルールを明記し、勤怠システムで自動集計します。通知オフの時間帯を設定し、有給付与や代休取得の取り扱いも定めることで、健康管理と生産性の両立につながります。
企業がワーケーションを導入する際のポイント
ワーケーションを成功させるためには、明確な目的設定と運用体制の整備が欠かせません。流行に合わせて導入するのではなく、自社の働き方や人材戦略に合った制度設計を行うことで、継続的な効果を得ることができます。ここでは導入時に押さえておきたいポイントを解説します。
- 目的を明確にした制度設計を行う
- 労務管理と情報セキュリティ対策を整える
- 従業員とのコミュニケーション設計を重視する
- 導入後の効果検証と改善サイクルを確立する
ポイントを整理しながら導入を進めることで、制度の定着と成果を両立させることができます。
目的を明確にした制度設計を行う
制度導入の目的を明確にすることは、成功の第一歩です。たとえば「社員のリフレッシュ」「新規アイデアの創出」「地域連携の強化」など、狙いを具体化しておくことで制度運用の方向性が定まります。目的を共有すれば社員の理解が深まり、制度に対する納得感も生まれやすくなります。また、実施対象や利用条件、成果の評価方法を事前に設定しておくと、導入後のトラブル防止にもつながります。制度を形だけで終わらせないためには、経営層と現場の双方が目的を共有し、運用意義を明確に持つことが大切です。
労務管理・情報セキュリティ対策を整える
ワーケーションでは勤務場所が分散するため、労務管理と情報セキュリティの体制を強化する必要があります。クラウド型勤怠管理システムを導入して勤務状況を正確に把握し、勤務時間の上限や休憩時間を明確にすることが重要です。さらに、社用PCのセキュリティソフト導入やVPNの利用徹底、ファイル共有ルールの整備を行うことで、安全性を高められます。従業員向けのセキュリティ教育を定期的に実施すれば、意識面でもリスクを減らせます。制度運用を安定させるには、技術と運用の両面から体制を整えることが不可欠です。
従業員とのコミュニケーション設計を重視する
ワーケーションでは物理的な距離が生じるため、コミュニケーションの質を意識的に保つ工夫が求められます。オンライン会議ツールやチャットを活用し、情報共有の頻度を高めると業務が円滑になります。さらに、上司と部下の1on1ミーティングを定期的に設けることで、進捗確認と心理的フォローの両立が図れます。加えて、社員同士が気軽に意見交換できるオンライン雑談の場を用意すると、チームの一体感を維持しやすくなります。コミュニケーション設計は、制度の浸透と信頼関係構築の土台となります。
導入後の効果検証と改善サイクルを確立する
ワーケーション制度は導入して終わりではなく、定期的な見直しと改善が重要です。社員アンケートや業務データを活用し、満足度や生産性の変化を数値で把握することで、改善の方向性が見えてきます。成功事例を社内で共有すれば、制度の理解と活用が進みやすくなります。さらに、検証結果をもとに制度を柔軟に更新することで、現場のニーズに合った形に育てていくことができます。PDCAを継続的に回す仕組みを整えることで、ワーケーションを一過性の施策ではなく、企業文化として根付かせることが可能になります。
ワーケーションの導入事例と今後の展望
ワーケーションを導入する企業や自治体は増加しており、活用の目的や形態も多様化しています。社員の健康促進や創造性向上を目的に制度化する企業もあれば、地域連携やCSR活動の一環として取り入れるケースもあります。
ここでは、代表的なワーケーションの導入事例や支援制度、今後の広がりについて紹介します。
自治体・大企業による先行事例
地方自治体や観光庁を中心に、企業と連携したワーケーション推進の取り組みが全国で進んでいます。たとえば長野県や和歌山県では、自然豊かな環境や宿泊施設を活用したモデルプランを展開し、企業研修やチームビルディングの一環として利用されています。大手企業では、社員の心身の健康維持やイノベーション促進を目的に、リゾート地や地方拠点での合宿型ワーケーションを導入する動きも増えています。こうした事例は、地方との協働によって新しい働き方の価値を創出し、企業の社会的評価を高める好例といえます。
国や自治体の支援制度・補助金情報
国や自治体は、ワーケーション導入を支援するための補助金や助成制度を整備しています。観光庁が推進する「新たな旅のスタイル推進事業」や、地方自治体による宿泊費・交通費の補助制度が代表的です。こうした支援を活用すれば、企業は導入コストを抑えながら制度を試行できます。さらに、自治体によっては企業と連携して「ワーケーション誘致拠点」を設け、企業向けの設備提供や現地支援を行う事例も増えています。最新情報は自治体や観光庁の公式サイトで更新されるため、導入検討時にはこまめな確認が大切です。
今後拡大が見込まれる業種・職種
ワーケーションは情報通信業やクリエイティブ職にとどまらず、教育、コンサルティング、行政など多様な分野で導入が進む見込みです。オンライン会議ツールやクラウドシステムの進化により、どこでも業務を行える環境が整ってきたことが背景にあります。今後は「家族同伴型」や「地方滞在型」など、ライフスタイルに合わせた新しい形が登場すると考えられます。また、企業同士の交流を目的とした「地域共創型ワーケーション」も注目されており、働き方だけでなく事業連携の機会としても発展が期待されています。
まとめ|ワーケーションで働き方の選択肢を広げよう
ワーケーションは、仕事と休暇を調和させることで、働く人の心身の健康と生産性の向上を両立させる新しい働き方です。非日常の環境で業務に取り組むことで、リフレッシュ効果が得られ、創造的な発想や柔軟な思考が生まれやすくなります。企業にとっても、人材の定着や採用力の強化、地域社会との関係構築など、幅広いメリットをもたらします。
一方で、労務管理やセキュリティ、費用負担などの課題も存在します。そのため、導入の目的を明確にし、自社に適した制度設計を行うことが欠かせません。制度導入後は、定期的な効果検証や社員との対話を重ねながら、改善を繰り返していくことが大切です。
国や自治体の支援制度をうまく活用すれば、コストを抑えながら制度をスムーズに導入できます。ワーケーションは一時的なトレンドではなく、今後の働き方改革を支える実践的な仕組みとして、企業文化の一部になる可能性があります。
新しい環境で働くという選択が、社員にとっての成長と企業にとっての変革につながるように、今から一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。




